2014年6月20日金曜日

ムーディーズの格付けの正否は今後の課題

日本の格付け機関も、「ジャパンースタンダード」の「損失後利回り曲線」を前提にして格付けを行っているので、「ジャパンースタンダード」の「発行条件曲線」と対称になっており、理論的に正しい格付けを行ってきたといえる。したがって、米国と日本の格付け機関はそれぞれ異なる「スタンダード」を取っているために格付け結果が異なってくるが、理論的にはどちらも正しい格付けを行っていることになる。

格付けは将来のデフォルド率を見通して行うわけであるから、今後、日本のデフォルト率が米国並みになるとすれば、現在行っている米国の格付け方式「アンプロースタングート」は正しいということになる。一方、日本国内では今後も社債についてはデフォルトが発生しないような市場運営が行われていくとすれば、「ジャパンースタンダード」による格付けが正しいことになる。米国のスタンダードがやがて世界を席巻することになれば、それが「クローバルーズタングート」になり、日本の「ジャパンースタンダード」はローカル基準になるであろう。あるいは、ユーロ地域やアジア地域などが独自のスタンダードを切り開いていくことになれば、「アンプロースタングート」も一つのローカル基準として受け入れられることになるであろう。

以上のことからわかるように、ムーディーズが日本企業の格付けを正しく行っているというためには、今後、日本の社債市場のデフォルト発生率が「アングロースタンダード」の高さに上昇することが必要である。これまでの日本の社債については、適債基準や償還についての社債優先の考え方があって、ほとんどデフォルトが発生しないように運営されてきた。日本の格付け機関はそのような実態を反映してこれまで格付けを行ってきた。しかし、日米円・ドル委員会による金融市場の規制緩和や市場経済化の進展、ビッグバンの実施などによって日本の企業環境は急速に変化しているので、今後も低いデフォルト率を維持できるかどうかはわからない。

図3に示したように、ムーディーズは一九八八年に日本企業三七社を格付けした。八八年の欄にあげた十年デフォルト率は、格付け後十年間のそれぞれの格の平均デフォルト率で「アングロースタンダード」、つまりアメリカにおけるデフォルトの数値である。デフォルトが少ないという当時の日本の実状を反映して、すべてがBaa以上の投資適格の範躊に入っている。十年後の今年一九九八年には、Baa債券は平均デフォルト率が五・〇二%であるので一〇〇件のうち五件がデフォルトになるはずであるが、格付け件数が少ない(三件)ので、統計的にこの格付けが正しかったかどうかを判定することはできない。

一九九三年にムーディーズは一九七社の日本企業を格付けした。五年デフォルト率は格付け後五年間の平均デフォルト率を表し、「アンプロースタングート」で表示している。Baaの五年平均デフォルト率は二・〇六%(十年デフォルト率より期間が短いのでデフォルト率も低くなっている)であるから、六四件のうち一・三件のデフォルトが発生する確率である。同様に、Baの平均デフォルト率は一一・五一%なので、二六件のうち三件のデフォルトが九八年までに発生すれば格付けが正しかったといえるであろう。