2013年7月4日木曜日

日本女性の就労率

現役世代の専業主婦の四割が働くだけで団塊世代の退職は補えるこれまで日本の経済界、企業社会は驚くほどの男社会で、女性の参加促進をまったく本気でやって来ていませんでした。ですがどんどん生産年齢人口の減っていくこの日本で、いつまで生産や経営は男だけが担うというスタイルを続けるつもりなのでしょう。そのことがどれだけ日本経済の足を引っ張っていることか(さらにいえば国際社会からの蔑視を招いていることか)、いつになったら気づくのでしょうか。まず単純に頭数の問題です。日本の女性は四五%しか有償労働をしていません。正社員だけではありません、ハケンでもパートでもとにかく一週間に一時間以上、お金をもらって働いた人をすべて合計しても、女性の二人に一人は満たないのです。つまり今の日本では、総人口の三割近い三五〇〇万人もの女性が、給料の出ない専業主婦や学生や家事手伝いをしています。その中には高齢者の方も多いわけですが、生産年齢人口の専業主婦だけを取り出しても二一〇〇万人もいらっしやいます。

ところで今退職年代に入りつつある団塊世代のうち、有償労働をしていたのは五〇〇万人余りです。ということは、生産年齢人口の専業主婦コーOO万人のうちの四割が、(正社員であればもちろんいいのですが臨時採用でもハケンでもパートでもいいので)とにかく一週間に一時間以上お金をもらって働いてくだされば、団塊世代の退職が雇用減・所得減という形で日本経済に与えるマイナスインパクトは、なかったことになってしまうのです。特に心配なのは団塊の世代が担ってきた分の内需の減退ですが、これだけの数の女性が新たに給料を得、その分我慢せずにモノやサービスを買ってくだされば、実はお釣りが来て内需を支えることが可能です。団塊世代のオジサマよりも、女性の方が買いたいものが多いですから。「オマエは俺の給料を無駄遣いするのか」と旦那に嫌みを言われながら我慢していた分を、「これは私か稼いだ分だから使っていいでしょ」と堂々と消費してくだされば、日本の内需は革命的に向上します。その分企業の売上は増え、女性の雇用は(もちろん若者の雇用も)さらに増やすことが可能でしょう。

私は、「外国人労働者導入は必然だ」と主張する議論を読むたびにいつも思うのです。あなたの目の前に、教育水準が高くて、就職経験が豊富で、能力も高い日本人女性がこれだけいるのに、どうして彼女らを使おうとせずに、先に外国人を連れてこいという発想になるのか。日本女性が働くだけで、家計所得が増えて、税収が増えて、年金も安定する。そもそも女の人が自分で稼いでお金を持っていただいた方が、モノも売れるのです。車だって洋服だって日経新聞だって、働く女性が増えれば今以上に売れることは確実です。ところがそれがわかった人の中にも、「女性を使う前に一度退職した高齢男性を再雇用しろ」とおっしやる方もいらっしやいましょう。ですが高齢男性では内需拡大効果は限定されてしまうのです。孫のためにくらいしかお金を使わずに、後は本当の老後に備えて貯蓄してしまうだけですから。

ところが最近はその孫も少ない。逆に女性であれば、何歳になっても収入さえあればおしゃれな服や高い化粧品を買ってくれるのです。高くて量が少なくておいしいものも買ってくれる。一度退職した高齢男性を再雇用するよりも、現役世代の女性を雇う方があなたの売上も上がるのです。しかもこれは、外国人労働者を導入するのと違って、全然追加的なコストがかからない話です。日本人の女の人は日本語をしゃべれるし、多くが高等教育を受けていますし、年金や医療福祉のシステムを今から新たに増強する必要もない。彼女らが働いて年金だの保険料だのをさらに多く払ってくれれば、なおのこといいわけです。元気に働く高齢の女性が増えれば医療福祉の支出も下がりますし、所得税収だって増えます。

しかも日本女性の就労率四五%は、世界的に見てもずいぷんと低い水準です。たとえばオランダでは七割くらいあると聞きますが、彼女らも昔からそうだったわけではありません。人口が高齢化していく中で、昔は三割くらいしかなかった女性就労比率がどんどん上がっていったのです。日本だってそうならないはずはない。専業主婦の全員が「私は働きたくない」つていうのであれば仕方ないのですけれども、四割くらいは「短時間でもよくて条件に合う仕事があれば、働いてもいい」つていう人がいるでしょう。その人たちが働きやすくするだけで結構。それだけで向こう一○年十五年ぐらいは、経済的にはまったく牛産年齢人口減少がなかったのと同じ状況を作り出せるのです。



女性の就労と経営参加を当たり前に

どうも格差是正と叫んでいる人の中には、金持ちではないけれどもこの最低限のラインから考えればまだはるかに恵まれた生活を送っている人も多数いる。そんな連中にまで税金を差し上げる必要はない。他方で、本当に最低限のライン以下に落ち込んでいる人もどんどん増えているのに、むしろ支援の手が届いていなかったりする。このような事態を何とかするには、「格差解消」という相対的な概念を追求するのではなく、「絶対的な貧困の解消」、つまりある絶対的な水準(それはその時代ごとに相対的に決めることになるのではありましょうが)の下に落ち込んでしまった貧窮者の救済をもっと明確に進めるべきなのです。

ただおかげさまで日本の国では、増えてはいるのでしょうが絶対的に貧困な人は絶対的な少数者でもある。そういう人だけを救うという政策は民主主義的には不人気になりがちです。皮肉にも絶対的貧困者の予備軍が、かえって自分よりドの本当の貧困層を締め上げる策に賛成する、というようなことが起きかねません。これに対しては、最底辺に落ち込む人を皆で助けることで「自分もいつ絶対的貧困に落ち込むかわからない」という恐怖から皆で解放されようじゃあないか、という意識を社会的に醸成するしかありません。

恐らく以上をお聞きいただいたご年配の方の中には、非常に腹を立てられた方もいらっしゃいましょう。「年寄りを金づるか何かと思っているのかもしれないが、なめるなよ。我々からさらに金を奪おうというのか。そんな口車に乗せられて金を手放してみろ、リアエではないが、あとで子供からどんな仕打ちに遭うかわかったものではない」と。「年金も高齢者福祉も本当に大丈夫なのかわからないのに、虎の子の財産まで奪おうというのか」とおっしゃりたい方もいらっしゃるでしょう。私は増税をしろとか福祉の水準を切り下げろとか言っているのではありません。いずれ相続に回るだけの財産の余裕がある方に、「一部を早めに子供に渡して節税してはいかがですか」と申しているだけです。やるやらないは任意ですし、いつまでもそういうことを勧めるわけにもいかないので、時限を切って実施してはどうかと提案しております。

さらに申し上げれば、「年金も高齢者福祉も本当に大丈夫なのかわからない」のはなぜでしょうか? 政府が税収の二倍ものお金を使うという状況が慢性化して、もう首が回らなくなっているからです。無駄な支出は削るにしても、今や政府の予算の多くが医療福祉関連予算です。税収を少しでも増やすことを考えなければ、安心の未来は開けません。福祉予算が切り下げられたり、高齢者まで増税の標的になったりするくらいであれば、(余裕のある方の場合ですけれども)まずは財産の一部を気持ちよく子供世代(お好きであれば孫世代でもいいです)に渡すことで経済を活性化し、それをもって財政を守り自己防衛の一助とすることをお考えになってはいかがでしょうか。

前のところでは、高齢富裕層の貯蓄を若者に移転するだけでも大きな違いがあるということを申し上げて参りました。ここではもう一つ、さらに容易に手を付けることができる、しかも効果も極めて大きい策を申し上げます。戦後日本の経済を押し上げたロケットの一段目が団塊世代、二段目が団塊ジュニアであるとすれば、我々はまだ点火していない三段目のロケットを残しています。それは専業主婦に代表される、有償労働をしていない女性です。その力は、経済活動・企業活動での「男女共同参画」を進めることで、極めて有効に活用することができます。