2012年12月25日火曜日

人工授精によって受胎する

排卵誘発剤でたくさんの排卵を起こさせ卵子を採る沁痛と危険も、そのために支払う金額も時間も、さらに(幸運にも)生まれ出た子どもの身体への不安も、それほどたやすいものではないのに、いつも不妊は不妊、子持ちは了持ち、に財皿いは絶対にわかりあえないと分断される。もっと二分でなく、例えば不奸の娘を持つ親のな場だとか、不妊だけど治療(生殖技術)をしてまで妊娠はのぞまない立場だとか、子持ちでもう子どもは欲しくないのに妊娠しやすく悩み深い立場とか、それに不妊治療医、あるいはそうでない産科医など、いろんな立場の人が集まって、もっと自分の知り得た範囲の情報を交換し合う。そんな場があれば、今のようにみんながそれぞれに際限なく自分の立場以外に見えなくなることもなくなると思うのだが。

この代理母という方法では、さらに三つの重要な問題が浮かび上がる。一つは金持ち女性が貧しい女性の身体の機能を、お金で買うこと。あまりはっきりとは映さなかったが、この番組でも代理母となったアメリカの女性たちの住居は決して豊かなたたずまいではなかった。反対に依頼人たちは、全米でも屈指の資産家揃いであった(番組で登場したある斡旋業者の男性は「韓国やフィリピンの女性を使えばもっと安くなる」と話し、彼の所には、それらの女性の顔写真カタログと電話一本だけがあった)。

金で買われた貧しい女性たちの子宮は、当然ながら大切にされるのは彼女たちの「生産物だけ」である。借金返済のため、代理母として妊娠中、妊娠によって悪化したと考えられる心臓病で亡くなった若い女性の場合、花一輪のねぎらいさえなく、妊娠八ヵ月の依頼人夫婦の「子ども」の遺体も、もちろん引き取られてはいない。

二つ目は、生まれた子どもに何らかの障害があった場合である。その番組の中でも、エイズーウィルスの感染が予想された赤ちゃんの出生について取り上げられていた。その子は無事出生したが、依頼人夫婦からも代理母からも引き取りを拒否され、七ヵ月間施設のベッドにあずけられていたというo結局ヽ代理母のおばが引き取ったがヽ自分たちの力によって誕生した生命の重さを、この人たちはどのように考えているめだろうか。三つ目は、親権の問題。代理母と依頼人双方が親権を主張した場合として、すでに「ベビーM事件」が一九八七年にアメリカで争われた。

この事件の代理母となった女性は第一の方法で、つまり卵子を提供し、人工授精によって受胎し、出産したため、アメリカでも結局のところ明確な法律判断はできないまま依頼人夫婦に軍配があがったが、そこには子ども(卵や精子の状態でも)をお金で売り買いすることがそもそも許されるのだろうか、とか、子どもを実際に出産した身体の持ち主が親と認められていいのではないか、とか、大変難しい問題が含まれている。「Mちゃん」という子どもにとって、一番幸せなのはどういう状態なのだろうか。