2014年8月11日月曜日

中小企業倒産防止政策

こうした状況から世間では「ダム理論」なるものが横行した。「今は企業が利益を上げ資金を蓄えている段階。いわばダムに水がたまる状況だ。やがてこれが一定水準に達すれば、ダムから水が溢れるように、企業の設備投資が増え、雇用と支払い賃金も上がり、本格的な好景気になる」というのである。二〇〇〇年八月、日本銀行がゼロ金利政策を解除したのも、こんな楽観的期待からである。

しかし、当時、経済企画庁長官として経済の舵取り役を務めていた私は、そんな楽観はしていなかった。「企業利益は増加してダムに水が貯まる状況にはなっているが、これが設備投資や雇用増加となって奔るまでには体質的な改革が必要だ。ダムの底には、不良債権と過剰設備という二つの大穴があいているのを忘れてはならない。むしろ、今警戒すべきは、二〇〇〇年末から二〇〇一年にかけて『二番底』に入ることだ」。私はそういい続けた。

小渕内閣が緊急非常の対策として採った中小企業倒産防止政策や大型の需要創造(補正予算)は、可及的速やかにはずさなければならない。その際には必ず弱い産業、弱い企業に歪みが生じ、景気の下落になる。これがいわゆる「二番底」だ。二〇〇〇年後半から二〇〇一年にかけてそれが現われることを、私は予測していた。だから、森内閣では、日銀のゼロ金利解除にも反対したし、IT振興を中心とする二〇〇〇年度補正予算にも熱を入れた。

不幸にして私の悲観的予測は的中した。二〇〇〇年度も後半になると景気は後退、二〇〇一年に入ると、はっきりと「二番底」現象が現われた。これに加えて、二〇〇一年四月に発足した小泉内閣は、「(構造)改革なくして(景気)回復なし」をキャッチフレーズに、引き締め型の財政政策を採ったため、景気は一段と冷却、二〇〇二年初めには失業率は五・四%に上昇、日経平均株価は一万円を大きく割り込んでしまった。また、企業の利益も大幅に減少、二〇〇二年三月期の決算では、東京証券市場上場会社全体では赤字になった。実に厳しい「二番底」である。

バブル景気の崩壊以来十余年、政府は様々な景気対策を行ったが、未だに十分な効果を上げるには至っていない。その原因の一つは、細かくアクセル(景気振興策)とブレーキ(引き締め政策)とを切り換えたことにある。机上の数字と手続きにこだわる官僚主導の欠点である。アクセルとブレーキをしばしば踏み換えるのは、燃費の悪い運転方法だ。経済政策でも同様である。このため、日本経済は、景気回復の加速が付かないまま、財政資金という燃料ばかりを使い果たしている。七〇〇兆円に近い国公債残高が燃費の悪さの証である。