2016年3月8日火曜日

隣人の親切心から裁判へ

「ある隣人訴訟事件」とは、幼児を隣人に預けていた間に、その幼児が団地の近くにある溜め池で溺死し、親が隣人夫婦や国などを訴えた事件です。一審の津地方裁判所は、幼児を預かった隣人夫婦に過失があったとして合計五百万円余りの賠償支払を命じる一方、国や三重県などに溜め池の管理責任はないという判決を出しました。

このケースでも、善意から子供を預かった「ふつうの人」の責任追及だけは厳しく行われたわけですが、特筆すべきはその後の展開でした。この一審判決をマスコミは、「近所の善意に厳しい判決」「隣人の好意につらい裁き」などという一方的な論調で報道しました。

その結果、全国から原告(溺死した幼児の親)に非難中傷の嫌がらせかおり、その親の子供はいじめを受け、夫は会社も辞めさせられるなど社会的に厳しい制裁を受けて、原告は訴え自体を取り下げざるを得なくなりました(判決が出た後でも、相手の同意を得て訴えを取り下げることができます)。

この段階では、負けた方、過失があったと裁判所に認定された側か非難を受けたのではないのです。裁判で勝った側かそういう非難を浴びたのです。ちなみに、子供を交通事故などで死亡させた場合だと、賠償金の額はこのケース程度では済みません。この事件で裁判官は精一杯、被告夫婦に有利に解釈して、額をかなり抑えました。

しかも、通常の金銭支払いを命ずる判決ならば、第一審の判決段階で仮執行できる旨の文言が付くことも多いのですが、それもこの判決には付きませんでした。つまり、判決は出たけれども、原告は一銭も手にすべくもなかったのです。