2012年6月14日木曜日

葬儀のスタイルに変化、価格体系にも波及

ここ5年間で、消費者の葬儀に対する考え方が、大きく変わった。都内に本社を置く有力葬儀社の営業担当者は、葬儀を取り巻く環境が最近、激変していると打ち明ける。高齢化の進展で、今後30年間ほどは死亡者が増え続けるとの予測もあり、葬祭業の市場は拡大する見込み。ただ、葬儀のスタイルは、変わり始めている。

「病院に紹介された葬儀社に依頼したら、担当者と打ち合わせた予算を大きく上回った」という経験をする人は、多いようだ。消費者が葬儀をあげる回数は限られているし、結婚式と違って情報も少ない。消費者が適切な価格を判断するのは、もともと難しい。

モアライフ(東京・中央)の石井克昌社長は、営業担当者の報酬体系に原因があると説明する。一般的な葬儀社では、営業担当者の報酬は、基本料金から棺や祭壇、霊きゅう車などの格上げで、どれだけ追加料金を上乗せできたかで決まる場合が多いという。「人並みの葬儀」を目指すうちに、費用が予想外に膨らむ原因になる。寺院には読経などの機会を紹介する見返りに、消費者が僧侶に支払う法要料の一部を葬儀社が受け取る慣行も残るという。

葬儀料金が高くなる原因には、伝統的な葬儀社の営業コストが高いという事情もあるようだ。石井社長によると、葬儀社が案件を獲得するための伝統的な営業ルートが3つある。

ひとつは、病死者の紹介が期待できる病院。ふたつめは、事故死や急死の情報が集まる警察。3
つめは、町内会長など地域コミュニティーの有力者だ。葬儀社は、他社に先駆けて情報を得るために、それぞれのルートで契約料や交際費など多額の費用をかけているという。

ただ、こうした伝統的な営業スタイルの葬儀社は、少しずつ減少している。代わって、価格体系やサービス内容、営業姿勢を刷新した葬儀社が、支持を集めるようになってきた。

モアライフでは、多額の費用がかかっていた病院営業を廃止し、インターネットで直接、消費者に葬儀サービスを訴えている。公営の斎場を利用することで、設備投資を抑制する工夫もあり、会葬者30人で、従来は150万円以上かかっていた通夜・告別式の総費用を90万円程度に抑えている。

ネット経由では、「親が余命半年と宣告されたので、葬儀の準備を始めたい」という相談が、数多く持ち込まれる。「昔は『親が死んでもいないのに、葬儀屋に相談するのは不謹慎』という価値観が支配的だった」(石井社長)。けれども最近は、事前に価格やサービス内容を確認しておいたほうが、安心して葬儀をあげられるという考え方の消費者が増えているそうだ。

自分の葬儀を自分で準備する消費者も増えている。メモリアルアートの大野屋(東京・豊島)では、葬儀を“生前予約”するサービスに力を入れている。本人や家族の希望に沿った葬儀内容を予約しておくのだ。
無料の相談窓口を持つ同社には、すでに4000件近い生前予約がある。夫婦で相談に訪れて、夫人が「こういう葬儀で見送って欲しい」と要望するケースが8割を占めるという。

例えば、美術館のような同社の斎場を借り切って、一流の懐石料理を食べながら、ゆっくり時間をかけて故人とお別れする葬儀を準備する人もいる。予算は300万―500万円になるが、事前に見積もりを入手できれば、資金計画も立てやすい。利用者が納得したサービスは、割高でも支持されるという。

葬儀の平均単価を経済産業省の特定サービス産業動態統計調査を基に算出すると、2006年は平均152万円だったが、07年には151万円となり、08年は6月までの半年間の平均で148万円と、少しずつ下がっている。

葬儀では、よりシンプルな手続きと、個性的な内容が求められているようだ。そして、余分な支出は排除して、納得できるサービスには積極的に支出する消費態度が、次第に強まっているようだ。